池田邦彦「カレチ」 ~なき国鉄への郷愁
作者もタイトルも知りませんでした。そもそも私は子供の頃からなぜか漫画は読まなかったので当然といえば当然なんですが。「カレチ」、昭和の鉄道ファンなら惹き付けられる言葉ですね。
そんな私がこの作品を知ったのはNHK「ラジオ深夜便」で紹介されているのを偶然聴いたからであります。「カレチ」というタイトルに激しく反応してしまいました。
翌日には早速近所のBOOK 1st.を訪れ慣れないコミックコーナーを物色、汗を掻きながら第1巻を手にしたのでありました。
この作品の舞台となっているのは昭和40年代後半の国鉄。主人公である荻野カレチは大阪車掌区所属とあって乗務する列車は「白鳥」、「雷鳥」、「あかつき」など。この頃カメラ片手に大阪駅頭で列車を追いかけ回していた私にとっては一コマ一コマに懐かしい国鉄の情景が甦ってきます。
当時小学生だった私は多くの鉄道少年がそうであったように国鉄マンに憧れていました。それも運転士ではなく車掌に。アイボリーの盛夏服に赤い腕章の姿にとりわけ憧れを抱いたものでした。その思いを初めて乗ったブルートレイン「北陸」のカレチさんに話したところ「こんな赤字会社に入っても仕方ないよ・・・・」と笑われたものでした。そんな思い出も去来します。
この「カレチ」という言葉もJRになってからは車掌長、乗客専務などといった職制が廃止されて聞かなくなりました。平成の鉄道少年たちにとっては「ナニそれ?」ってな感じかもしれません。
この作品は昭和の鉄道少年だった世代には憧れの国鉄へのノスタルジーを掻き立ててくれるでしょう。また、現役の鉄道少年たちには未知の国鉄の旅へと誘ってくれるものと思います。
国鉄末期の惨状を知る世代としてはもちろん「あの頃は良かった」なんて言うつもりはありません。ただ、昭和40年代後半というと衰退する国鉄が最後の微かな光を放っていた頃といっても良いでしょう。そんな時代設定もこの作品に魅力を添えているのかもしれません。
全3巻、ただいま第2巻を熟読中であります。